逆転満塁ホームランで思い出す2007年の夏、広陵対佐賀北で感じた「空気」の力に抗えるか

こんなことってあるんだなと思いながらダイヤモンドを一周する筒香嘉智を見ていた。8月17日に行われたDeNA対広島戦の八回、3点を追いかけるDeNAは1番・大和から始まる打順で3連続ヒット。

ノーアウト満塁で4番の筒香に打席が回る。このタイミングで広島は先発の野村祐輔を諦めて一岡竜司にスイッチ。その初球を捉えた筒香の打球はライナーでライトスタンドに消えていった。ひと振りで試合をひっくり返す逆転満塁ホームラン。

さらにDeNAは宮崎敏郎、ソトも続く3者連続ホームランで一岡から5球で6点を奪う。

DeNAは土壇場の逆転劇で7-5の勝利を収めた。

思い出されるのは1年前の8月22日。そのときも今回と同じ横浜スタジアムでDeNAと広島は対戦し、3点ビハインドの状況で筒香が追撃の2ラン、ロペスが同点のソロ、宮崎が3者連発となるサヨナラホームランで大逆転勝利した。

3者連続ホームランでのサヨナラ勝ちはプロ野球史上初の出来事だった。

今回は直前で野村が降板しているため厳密には同じと言えないが、野村の登板試合で2年連続の3者連続ホームランは奇妙なめぐり合わせを感じた。

だが、それよりも野村と逆転満塁ホームランといえば、広陵高校時代に出場した2007年夏の甲子園が強く思い出される。

甲子園決勝で史上初の逆転満塁ホームラン被弾

この大会では広陵と佐賀北が決勝に勝ち進み、野村は佐賀北を七回まで1安打に抑える好投を見せていた。終盤まで4-0で広陵がリードし優勝は間違いないかに思われた。

だが野村は八回に佐賀北打線に掴まる。2アウト満塁から低めに投じたストレートは渾身の1球だったが球審はボールと判定。押し出しで佐賀北に1点が入った。

野村は「え?」と困惑した表情を浮かべ、受けていたキャッチャーの小林誠司(巨人)はミットを地面に叩きつけ悔しがる。

その直後に野村は甲子園決勝では史上初の逆転満塁ホームランを浴びる。

特待生問題もあった2007年は異様な雰囲気だった

劇的な一撃の遠因になった1球は判定で物議をかもした。本当にボールだっのか。入ってたんじゃないか。審判が佐賀北を応援する球場の空気に飲まれたのでは。

この時期はプロ野球で裏金問題があり、高校野球でも特待生問題が明るみに出て世間の気分が反私立、反金萬球団に傾いていた。そうしたなかで地方の公立高校でありながら甲子園決勝まで勝ち進んできた佐賀北に世間は注目し、判官贔屓な空気が醸成されていたのは否めない。

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2007年の野球はお金をめぐる問題が取り沙汰された

よりドラマチックで刺激的な展開が期待され広陵は半ば敵役にされてしまった。

だからといって佐賀北の満塁ホームランに価値がなくなるわけではないし、あの異様な雰囲気で打席に立ち甲子園のスタンドまで運んだ副島浩史の打撃は素晴らしいものだった。

教育の一環を標榜し建前に掲げている高校野球が、偏ったアングルにより広義的な意味での感動ポルノとして消費されるのも、広陵対佐賀北戦が初めてではない。そも高校生が炎天下の連戦・連投で心身を擦り減らす様子をパッケージ化し、コンテンツ化することで成立してるビジネスの面を否定することはできない。

だから広陵対佐賀北戦だけを取り上げ、ことさらに批判するのは欺瞞であるとも感じるが、それでも2007年の夏は忘れられない出来事のひとつになっている。

直前に四球を出したのは自分の力不足と言い、大学で制球力を磨いてプロ入りした野村と大学・社会人を経てプロ入りした小林がセ・リーグの試合で頻繁に顔を合わせている関係もあるだろうが、あの試合で感じた違和がベッタリ記憶と心に張り付いたまま拭えず11年経ってしまった。

それは、あのとき感じた狂乱の空気、ある方向に人間を押し流そうとする雰囲気が甲子園や野球を離れても感じられる、普遍的な問題だったからなのかもしれない。そうした流れを感じたときに抗えるか、面と向かって反抗できないまでもそっとその場を離れ、冷静に状況を見直せるかと自分に問い続けている。